キャンセル待ちが起きた広島県の合説で実践した集客のノウハウとは
「新卒向けの合同説明会を開いても学生が集まらない」、こうした嘆きは全国の採用現場に広がっています。50社規模の会場で来場者がわずか8人だった事例を筆者は知っています。出展した会社の担当者は、その日の交通費と人件費を回収できません。空席だらけのブースで時計を見つめる4時間は、心が折れます。知らないうちに、こうした風景が当たり前になっていないでしょうか。
逆方向の事例があります。広島県が2026年4月25日に主催した28卒向け就活イベントの話です。開催前にキャンセル待ちが出るほどの盛況でした。参加学生は300人超、出展企業は約50社、県主催では過去最大の規模です。ブースは満席、テーブルには学生が座り込んで30分以上の対話が続きました。同じ50社規模で来場12人と300人超。差は25倍です。仕掛けを知らずにいた会社は、ただ損をしていただけかもしれません。
仕掛けの1つ目はドレスコードの逆転です。スーツ入場禁止、履歴書不要、友達との参加歓迎の3つを学生に約束しました。参加者からは「ラフな感じで意見が言いやすい」との声が集まりました。気が緩めば、口数は自然に増えます。質問の質も深くなります。
仕掛けの2つ目は、企業側の服装も縛った点です。スーツも作業服も着用禁止としました。学生が「やはりスーツの方が良いのでは」と気を遣う余地を、運営側から消したわけです。空気が対等になると、本音の質問が飛び交います。「残業は本当にないですか」、「上司ガチャは怖くないですか」、こうした問いがブースで自然に出るようになりました。
最大の発想転換は、伝える内容の主語を入れ替えた点にあります。共催したドットピーク社の明見社長はこう語ります。「民間のイベントは、企業の伝えたい話が中心。今回は学生が聞きたい話を伝えてもらう設計にした」。たった1行ですが、設計思想の大転換です。多くの会社は90分の時間枠の70分を会社案内に使います。残り20分を質疑に充てます。学生が知りたい話は、その20分にしか登場しません。順序が逆だったのです。
裏付けの数字があります。ディスコ社のキャリタスリサーチが25卒モニターに行った調査によりますと、学生が聞きたかった内容の1位は「実際の仕事内容」で82.3%でした。2位は「社風」61.9%、3位は「給与水準・平均年収」58.2%と続きます。特に「具体的な仕事内容」や「入社後のキャリアモデル」は聞きたかった内容として多く挙げられている一方、実際に聞けた割合は低い事実も明らかになっています。10人中8人が知りたい話を、企業の8割が満足に答えていない。需要と供給がずれていたわけです。
就活生が貴社の前で抱える不安を、4つの具体的な問いに置き換えてみてください。「入社初日からの3か月で、どんな仕事を任されますか」、「それができるようになる教育の仕組みはありますか」、「最初の上長はどんな人で、何歳ですか」、「同じ部署で毎日顔を合わせる先輩は何人いますか」。この4つの問いに、その場で5分以内に答えられる会社が、いま勝っています。WEBにも会社案内にも書かれていない情報を、就活生は対面で確かめにきます。
会場での景色を想像してみてください。ある会社のブースは閑散としています。担当者2人が学生を呼び込んでも、立ち止まる学生は10分に1人です。となりのブースは違います。学生5人がテーブルを囲み、入社1年目の若手社員が自分の1日の仕事を語っています。学生は身を乗り出して聞き、メモを取り、写真を撮ってSNSに上げます。後者には次の説明会でも学生が殺到します。前者には2度と戻ってきません。
5年後の自社のバランスシートを試算してみましょう。学生が集まらない会社は、採用代行や紹介会社への支払いが膨らみます。新卒1人あたり80万円だった採用単価が、3年で150万円、5年で250万円へ跳ね上がる試算は珍しくありません。10人採用すれば年間2500万円です。逆に「学生が聞きたい話」を語れる会社は、合同説明会の参加申込が口コミで広がります。採用顧問サービスを契約している企業で応募した学生の数が前年より10倍以上に伸びた事例がたくさんあります。採用単価は半分以下に下がりますね。会社全体のバランスシートで見れば、年間1000万円以上の差が生まれます。
現状維持を選んだ会社の5年後も想像してみます。「成長できる職場です」「やりがいのある仕事です」を連呼し続けます。Z世代の中途採用も含めて応募が細っていきます。30代の中堅社員は1人辞めると補充に1年以上かかります。残った社員の負荷は雪だるま式に増えます。退職者がさらに増える悪循環に入ります。逆に学生の問いに正面から答える会社は、Z世代の中途応募も伸びます。新卒で取れなかった分を、第二新卒で取り返す動きが始まります。採用の選択肢が一気に広がるのです。
貴社が明日からできる動きを1つだけお伝えします。費用は0円、所要時間は60分です。今いる入社1年目から3年目の社員3人に、紙1枚を渡してください。書いてもらう項目は4つだけです。「入社初日にやった仕事」、「3か月目に任された仕事」、「上司の年齢と人柄」、「毎日話す同僚の人数と雰囲気」。集まった紙3枚を、次の説明会の冒頭5分で読み上げます。スライドも資料もいりません。学生の表情が、目に見えて変わります。質問の数は前回の3倍に増えるはずです。
社員が自分の言葉で語る経験は、本人にも効きます。「自分の仕事を会社が大事にしてくれている」と感じる若手は、定着率が上がります。採用と定着の両方に効く打ち手なのです。広島の会場で30分以上の対話が50社のあちこちで起きた事実が、その証拠です。
さぁ、貴社も若手3人に紙を渡すところから始めましょう。
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