就活でひどい目に遭うほど良い会社を見抜けられる現実
就職活動は、あなたが企業を試す場でもあります。
厚生労働省が実施した調査によると、就活中またはインターンシップ中にセクシャルハラスメントを経験した学生の割合は31%にのぼります。4人に1人以上が被害を受けている計算です。この問題を受け、改正男女雇用機会均等法により、2026年10月からはすべての企業が就活生へのセクシャルハラスメント防止措置を講じることが義務付けられました。具体的には、面談時のルールを事前に策定・周知すること、相談窓口を設けること、問題が起きた場合に迅速に調査・対応することなどが求められます。ただし、義務違反に対する直接的な罰則規定は設けられていません。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD15BIW0V10C26A7000000/
ここで考えてほしいのですが、罰則のない義務はどこまで機能するでしょうか。速度違反の取り締まりがなければ、多くのドライバーはアクセルを踏み続けます。それと同じ構図です。
だからこそ、あなた自身が目を開く必要があります。法律や企業の自浄作用を待っていても、あなたの就活は進みます。今この瞬間から、面接の場をまったく別の角度から捉え直すと、就活の見え方ががらりと変わります。
面接は、企業があなたを選ぶ場だと思っていませんか。それは半分しか正しくありません。残り半分は、あなたが企業を選ぶ場です。採用担当者の振る舞い、質問の中身、その場の空気は、入社後の日常をそのまま映し出す鏡になります。
たとえば、面接官から「体型は維持できていますか」「彼氏はいるの?」などと聞かれたとします。これらは厚生労働省が公表している指針の中で、採用時に尋ねることが不適切とされている質問に当たります。仕事の能力とまったく関係がないからです。こうした質問を平然と投げかけてくる面接官は、その企業が「何をセクハラと見なすか」すら把握していない、あるいは把握したうえで無視しているということになります。
その場は不快です。怒りもわくでしょう。しかし同時に、あなたはひとつの重要な情報を手に入れています。「この会社の内側は、今目の前で起きていることと同じだ」ということです。
ナビサイトに載っている「社員を大切にする会社です」という言葉も、会社説明会での「風通しの良い職場です」という話も、インターンシップで見せられた明るいオフィスの雰囲気も、すべてが採用広報の演出です。企業はあなたに入社してもらうために、良い面だけを見せようとします。しかし面接の現場、とりわけ選考が佳境に入ったときの面接官の言動だけは、演出しきれません。日常がにじみ出ます。
セクシャルハラスメントだけではありません。いわゆる圧迫面接も、同じ観点で読み解けます。「なぜそんな大学に行ったの」「その程度の経験で自己PRになると思っているの」といった言い方で、あなたの人格や出自を否定するような質問を面接の場でぶつけてくる会社があります。これは就職活動においてパワーハラスメントに相当すると見なせる行為です。
重要なのは、こうした対応をする面接官が「個人として問題のある人」であるかどうかではなく、「その会社の選考プロセスとして許容されている」という事実です。組織が黙認しているから、その面接官はそこに座っています。つまり、その振る舞いはその会社の文化です。入社後に、あなたは上司としてその人と、あるいはその人と同じ価値観を持つ人たちと毎日を過ごすことになります。
内定を取ることが目的になると、人は目の前の不快を見て見ぬふりをします。「きっと面接だからこんな聞き方なんだろう」「自分が気にしすぎているだけかもしれない」と、感じた違和感を自分の中で消してしまうのです。それが後々、大きな代償になります。
入社3年以内に離職する新卒の割合は、厚生労働省の調査で毎年30%前後に達しています。その背景には、職場の人間関係や社風への不満が大きく影響しています。採用広報と実態のギャップを見抜けないまま入社することが、早期離職の温床になっているのです。
セクハラや圧迫面接に遭遇したときに大切なのは、その場を感情的にやり過ごすことでも、ただ耐えることでもありません。「この会社で働き続けた先に、自分はどうなるか」を、その瞬間にリアルに想像することです。
面接官が無遠慮な言葉をぶつけてきているとき、あなたは心の中でひとつ問いを立ててみてください。「この人が私の直属の上司だったら、3年後の自分はどうなっているか」と。答えが出るまでもなく、体が反応するはずです。それがあなたの正直な答えです。
採用は双方向のプロセスです。企業があなたに「うちで働いてほしい」と言う権利があるのと同じように、あなたには「ここでは働きたくない」と判断する権利が等しくあります。内定を「もらうもの」と受け身に捉えているうちは、本来持っているその権利を自分で手放していることになります。
就活の会社説明会やOB・OG訪問は、企業があなたに見せたい顔を見せる場です。しかし面接は違います。面接の場で企業が示す対応の質こそが、入社後に毎日あなたが接する組織の実態に最も近い情報です。良い面接官との面接では、あなたは自分の言葉を引き出してもらえます。自分でも気づいていなかった強みや考え方を、うまく聞き出してくれる。それが優れた面接です。逆に、威圧的な言い方で萎縮させたり、業務と無関係な質問を投げかけたりする面接は、そのやり方が許されている組織であることを教えてくれています。
もうひとつ、現実として伝えておきます。セクハラや圧迫的な対応をする企業が多ければ多いほど、それをしない企業が際立ちます。あなたが面接官の言動を冷静に観察できる学生であれば、そうした良い会社を見抜くための眼を就活の中で磨いていけます。これは就職後も一生使えるスキルです。人を見る目、組織を見る目は、理不尽な場面に遭遇したとき、それを感情で処理するのではなく「材料として蓄積する」訓練をすることで育ちます。
最後に、お子さんが就活中の親御さんへも一言お伝えしたいと思います。子どもからセクハラや圧迫面接の話を聞いたとき、「そこで折れないで頑張れ」と励ますのは、正しい方向への励ましではないかもしれません。理不尽に耐えることを推奨することと、理不尽を見極める目を育てることは、似ているようで真逆です。「その会社で働き続けた先に、あなたはどうなりそうか」を一緒に考える。それが今の時代における、子どもの就活への最良の関わり方だと考えます。
就活でセクハラや圧迫面接に遭遇したとき、それはあなたが損をする経験ではありません。その会社の本当の姿を、入社前に無料で見られる機会です。受け取り方次第で、それは間違いなくチャンスになります。
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