奨学金の代理返済制度の適用は新卒採用でかなり有効なツールだよ

大学生の2人に1人が奨学金を抱えて社会に出ています。日本学生支援機構(JASSO)の令和4年度調査によると、大学(昼間部)では55.0%、短期大学(昼間部)では61.5%の学生が奨学金を受給しています。これは「一部の学生の話」ではなく、新卒採用市場の過半数がすでに借金を背負ったまま入社してくるという現実です。採用に悩む経営者や人事担当者に、今すぐ使える制度の話をします。

その制度の名前は「奨学金の代理返還制度」です。ご存じでしたか。知らなかったとしたら、それは大きな損です。この制度を使えば、採用力の底上げと節税が同時に実現します。まず制度の中身を整理します。

企業が従業員に代わり、日本学生支援機構へ直接、奨学金の返還額を送金する仕組みです。2021年4月から、企業が社員を介さず直接JASSOに送金できるようになりました。それ以前は、会社が社員にお金を渡し、社員が自分でJASSOに返済するという手順でした。今は会社から直接、機構へ振り込めます。手続きの煩雑さが大幅に解消されたのも、普及が加速している理由の一つです。

では、企業側にどんなメリットがあるのか。支援した金額は給与ではなく、企業側は支援額を損金算入でき、従業員側も一定の要件を満たせば支援額が給与所得とみなされず非課税となるよう制度が整備されています。もし同額を給与や手当として支給すると、社員には所得税と住民税がかかります。社会保険料の計算対象にもなります。代理返還の形を取ることで、従業員の返済負担を減らすだけでなく、企業側にもメリットがあります。たとえば企業が月に3万円負担する場合、通常の手当として支給すると約4,500円が税金として引かれますが、代理返還の形にすると税金の対象外となり、3万円がそのまま奨学金の返済に充てられます。社員の手取りを実質的に増やしながら、会社の負担は通常の手当支給と変わらない。こんなに効率のいい福利厚生は、そうそうありません。

学生の側の切実さも数字で確認しておきます。奨学金の平均借入総額は324.3万円、借入総額が500万円を超える人も12.4%にのぼります。卒業した瞬間から300万円を超える借金の返済が始まるわけです。毎月の返済額の平均は1万5,000円で、14〜15年かけて完済している人が多い状況です。初任給から家賃、食費、交通費を引いた後に、毎月1万5,000円の返済が20代の間ずっと続く。そのプレッシャーは、就職先を選ぶ判断に直接影響します。

実際に就活生への調査でも、その影響は数字に表れています。奨学金の返済があることが企業選びに影響したと答えた学生のうち、注目した企業選択のポイントとして「初任給の額(69.6%)」が最も多く、次いで「福利厚生の充実度(53.5%)」が多い結果でした。奨学金返済支援制度の有無に注目した学生も28.1%いました。初任給を簡単に上げられない中小企業でも、この制度があれば「実質的な手取りの多さ」という観点から、大企業に対抗できる武器になります。

大企業の事例からも効果が見えてきます。松屋フーズホールディングスは2024年1月から代理返還制度を導入し、毎月の月賦額と同額を支援、支援総額は最大200万円としています。制度導入の背景には、2022年度の新卒に限った早期退職率が48%に達していた問題があり、その解決策の一つとして採用されました。採用だけでなく、定着率の改善にも機能しているのが実態です。フジテックでは月額最大2万円、最長10年間支援する制度を導入しており、2023〜24年度の新卒社員においては制度導入後の離職者がゼロとなりました。離職コストを考えると、1人当たり採用・教育費として数十万から数百万円が消えます。その流出が止まるなら、制度のコストは十二分に回収できます。

利用している企業は増えています。令和8年3月末時点で、全国で4,852社が奨学金返還支援(代理返還)制度を利用しています。そして文部科学省は2027年度末までにこの数を1万社超にする目標を掲げています。前年度比で5割増という急拡大が続いているのに、全体から見ればまだ4,852社です。日本には中小企業だけでも数百万社あります。裏を返せば、今この制度を導入すれば、まだ圧倒的に希少な企業として際立てます。

ここで注目してほしい話があります。制度の周知率が地域によって極端に違うのです。全国を廻ると、その温度差は歴然としています。たとえば長野県では45社が導入している一方、大分県はたったの8社です。制度そのものは全国共通で使えるのに、知っている企業と知らない企業でこれほどの差があります。大学のキャリアセンターの職員は、奨学金を借りている学生に対して、代理返還制度を導入している企業のリストを見せながら「この中から探すといいよ」と勧めています。就活生は実際にそのリストを手がかりにして企業を絞り込んでいます。リストに載っている企業と載っていない企業では、学生の目に映る見え方が根本的に違うのです。

今の採用市場がどれだけ厳しいかは、数字が雄弁に語ります。東京商工会議所が2024年11月に発表した調査結果によると、「採用が困難」とした企業が98.7%に達しており、採用計画に対して計画以上の内々定者数を確保できている企業は12.0%にとどまっています。10社に9社以上が採用に苦戦しているのに、使える制度を使っていない企業がある。これは機会の損失です。

では現状維持のまま何もしなかったらどうなるか。金利の上昇によって奨学金の返還負担は年々重くなっています。借金を抱えた学生は「毎月の返済が少しでも楽になる会社」を選ぶ優先度を上げていきます。その基準が存在する企業と存在しない企業とで、エントリー数に差がつき始め、内定承諾率にも差がついていきます。5年後には「奨学金の代理返還があって当たり前」の時代になっている可能性があります。そのとき後追いで導入しても、先行企業と同じ効果は得られません。早く動いた企業が、早期に「選ばれる会社」のリストに載り、キャリアセンターから紹介される企業になれます。

導入の手続き自体は複雑ではありません。JASSOの専用ページから申請を行い、ログインIDとパスワードが郵送で届いたら運用開始です。導入に際して一点だけ注意が必要です。入社直後から返還支援を行う場合、返還が終わったら従業員が退職してしまうケースも考えられます。勤続年数の条件をどう設定するかは慎重に検討しましょう。たとえば3年在籍した社員から支援対象にする、あるいは勤続年数に応じて支援額を段階的に増やすといった設計は、定着と採用の両方に効く仕組みになります。

就活情報が溢れる中で、学生が最終的に企業を選ぶ決め手の一つは「自分の生活が具体的にどう変わるか」のイメージです。月1万5,000円の重荷が会社に肩代わりされるという事実は、給与の数字よりもずっと具体的に心に刺さります。採用広報でも「奨学金の代理返還制度あり」は一行で済むのに、インパクトは絶大です。

今から手続きを始めれば、来春の新卒採用シーズンには堂々とアピールできます。求人票に一行加えるだけで変わるものが、確かにあります。

 


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