応募者が3倍増した町役場は具体的に何をしたのか?

神奈川県西部に開成町という小さな自治体があります。人口およそ1万8,000人、知名度は高くありません。その開成町が、新卒向けの職員採用試験で前年度の3倍以上の応募者を集めました。前年度の24人から、今年度は73人へ。応募枠が変わったわけではありません。採用予算を大幅に増やしたわけでもありません。やったことはたった1つ、「職場見学会」の実施です。この話を読み終えたとき、あなたの会社でも今週から動けます。
https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1296314.html

まず、採用がうまくいっていない会社に共通する問題の根っこを押さえておきます。「うちは知名度がないから」「大手に予算で負けるから」と考える担当者は多いですが、それは半分しか正しくありません。本当の問題は「応募する前の段階で、学生や求職者が不安を解消できていない」ことです。会社説明会に来た学生が「なんとなく良さそう」で帰っていき、でも応募には至らない——その「なんとなく良さそう止まり」を生み出している原因が、職場の見えなさです。

求職者が応募を決めるときの最大の不安は2つあります。「どんな場所で働くのか」「どんな人たちと毎日一緒にいるのか」——この2点です。求人票には仕事内容や給与や休暇日数が書いてあります。会社のホームページには事業内容や経営理念が書いてあります。でも、オフィスや工場の空気感、先輩社員の表情、休憩室の雰囲気、そういう「日常の質感」はどこにも載っていません。求職者はその見えない部分を想像で補うしかなく、不安が残ったまま「もう少し他も見てから」と動き出しを先送りします。開成町が解決したのは、まさにこの問題でした。

開成町が実施した職場見学会では、役場の日常業務のリアルな様子に加え、普段は外部の人が入れない休憩室まで案内しました。約30人の申し込みがあり、参加者のほぼ全員が採用試験に応募したと担当者は話しています。30人中30人に近い人数が試験まで進んだという数字は、見学会が単なる「会社の宣伝」ではなく、「決断を後押しする場」として機能したことを明確に示しています。さらに、実際に志望動機に「見学会での雰囲気が良かった」と書いた受験者もいたといいます。複数の自治体から内定をもらった中で最終的に開成町を選んだ理由として、見学会での印象を挙げる学生がいた——これは採用担当者にとって非常に大きな示唆です。

ここで冷静に整理しておきたいのが、職場見学会とインターンシップの違いです。インターンシップは通常5日以上、場合によっては2週間以上の就業体験プログラムです。学生の時間を長期間拘束し、企業側も担当者の工数、資料、プログラムの設計と多大な手間がかかります。一方、職場見学会(オープンカンパニーとも呼ばれます)は2〜3時間程度で完結します。業務を体験させる必要はなく、職場を歩いて回り、社員が少し話す、それだけです。コストは紙の案内状か、メール1通分です。準備時間は数日で十分で、社内の会議室1室と案内できる社員が1人いれば始められます。

インターンシップの設計・運営に追われて疲弊している会社は少なくありません。長い時間と手間をかけてプログラムを整えても、参加した学生が最終的に大手企業を選んでいくケースは珍しくありません。その労力を職場見学会に振り替えると、より少ない投資で、より高い確率で応募につながる可能性があります。開成町の事例はその証拠のひとつです。

製造業や工場を持つ企業にとって、職場見学会の効果はさらに大きくなります。なぜか。工場や現場は、見なければ伝わらないからです。機械が動いている音、製品ができあがっていく過程、現場の作業員が生き生きと動いている様子——これらをパンフレットや動画で伝えることには限界があります。実際に立って、聞いて、匂いを感じて初めて「ここで働きたい」という感覚が生まれます。設備が整った工場、安全管理が行き届いた現場、笑顔で迎えてくれる先輩社員——これらはすべて「採用コンテンツ」として機能します。多くの製造業の会社がこれを持っていながら、外に向けて見せることをしていません。

では、現状維持を選んだ場合に何が起きるかを考えてみてください。採用広告に費用をかけて応募者を集め、母集団が少ないまま選考し、希望する人材が採れない年が続く——この繰り返しの中で、採用単価(1人を採用するためにかかる費用)は上がり続けます。中小企業の平均採用コストは1人あたり数十万円から100万円を超えるケースもあります。一方、職場見学会を年に数回実施して応募数が3倍になるなら、同じ人材を採るために使う広告費は単純計算で3分の1に近づきます。5年間で積み上がるコスト差は、設備投資や人件費改善に使えるはずだった資金の話になります。

逆に、早期に動き出した会社にとっての恩恵も明確です。採用市場は「知っている会社から選ぶ」傾向が強まっています。マイナビの調査によると、入社予定先を決めた学生の一定割合が「大学3年生の3月までにすでに知っていた会社」を選んでいます。職場見学会を通じて「来てもらう」接点を早い段階で作った会社は、学生の記憶に残ります。開成町の担当者が「こうして触れ合っていると心に残る」と語ったのはこのことです。採用は認知と記憶の争いでもあります。1回の見学会が、半年後の意思決定に影響します。

また、職場見学会には採用以外の副次効果もあります。既存の社員が外部の若者に自分の仕事を説明する機会は、社員自身の言語化と誇りにつながります。「自分の仕事は説明できる、伝える価値がある」という実感が、社員の自己肯定感と定着率に影響するという報告もあります。採用のために始めた施策が、現場のエンゲージメントを上げる副産物をもたらすことは少なくありません。

今すぐできる最初の一歩は、社内で「もし今月、学生を10人案内するとしたら、どのルートを歩いてもらうか」を30分で話し合うことです。これに費用はかかりません。ルートが決まれば、次に案内役の社員を1人決める。その社員に「自分の仕事を3分で話してください」と伝える。それだけで職場見学会の骨格は完成します。告知は、大学のキャリアセンターへのメール1通から始められます。

開成町はこれを「地道な取り組みがじわじわと実を結んできた」と表現しました。大がかりな仕掛けではなく、来た人に職場を正直に見せた——それだけで応募者が3倍を超えました。採用が難しいのは予算が少ないからではなく、見せていないからかもしれません。ぜひ貴社も実践しましょう!


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