今日から使える採用も定着も同時に好転させる自社事業の言語化
採用がうまくいかない。せっかく内定を出しても辞退される。入社してもすぐに辞めてしまう。そんな悩みを抱えている企業の担当者に、今日は本当に使えるヒントをお届けします。大きな費用をかけなくても、採用と定着を同時に好転させる切り口が、実はすでに貴社の中にあります。
2026年8月17日付けの日刊工業新聞1面にて、このテーマを特集しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/789465
それほど企業の人材定着は今や経営の一大事です。注目したいのは、コロナ禍の前である2019年と2025年を比較した「離職者が会社に感じた不満の変化」です。「求められる成果が重すぎる」「評価に納得できない」という不満が増加したと記事は論じています。そのとおりです。しかし、見逃してはいけないもう1つの項目が同じグラフに並んでいます。「仕事に社会的意義を感じない」という不満が、2019年に比べて2025年は明確に増加しているのです。今まさに注目すべき最重要テーマがここにあります。
採用に苦しむ企業の多くは、給与や福利厚生の改善を真っ先に考えます。たしかに重要です。しかし給与を上げようとすれば、それだけコストがかかります。採用広告に費用を積んでも、応募が増えるとは限りません。中小企業の87.2%が「人材確保に課題を抱えている」と回答しており、この数値は過去最高水準という現実があります。裏を返せば、この状況でも採用に成功している企業は、別の武器を使っているはずです。
その武器こそ「仕事の社会的意義」です。
今の20代、とりわけ新卒の学生たちは、小学生のころからSDGsを授業で学んできた世代です。地球環境、格差、持続可能性といった社会課題が身近なテーマとして根付いています。株式会社ディスコが実施した調査では、就職先企業を選んだ基準として「社会貢献度の高さ」が2019年から2021年卒のいずれでも1位という結果が出ています。さらに、企業の社会貢献活動をしている企業を就職先・転職先として考えると回答した人が62%に上るという調査結果もあります。社会に何かを返したいという意識が、採用を左右するほど強くなっているのです。
ところが、採用担当者と実際に面談をすると「そんなに違いますか?」と驚く方が多い。じかに就活生や20代の求職者と話してみると、その意識のギャップは歴然です。「私が学生のころとは全く違う」と目を丸くする採用担当者は少なくありません。
そして、ここに見落とされがちな重大な事実があります。社会貢献への意識が強い一方で、就活生や20代の求職者には、事業内容ごとにどんな社会貢献が実現されているかを自分で考え抜く力が、まだ十分に育っていません。「考え方の基本を教わっていない」のが正直なところです。仕方のない話です。そもそも企業の事業活動は何かしらの社会貢献なくして成立しません。売上が生まれる時点で、必ず誰かの役に立っています。だから全ての企業は、多かれ少なかれ社会への貢献を実現しています。しかし求職者には、その「つながり」が見えていないのです。
貴社が動くべきポイントはここです。「ウチは事業を通じて、こういう形で社会に貢献しているんです」と、業界の専門用語をいっさい使わずに、わかりやすく伝える。それだけで「すごい!知らなかった!」という反応が引き出せます。採用につながる確率が格段に上がります。
具体的なシーンで考えてみましょう。電気工事会社の採用説明会を思い浮かべてください。以前は「弊社は住宅・商業施設の電気設備工事を行っています」と事業内容を読み上げるだけでした。参加した学生の顔には、ぴんとこない表情が並んでいました。数十万円かけて合同企業説明会に出展しても、エントリー数はほぼゼロ。担当者は「電気工事は地味に見られる」と悩んでいました。
ここで発想を切り替えました。「○○市の△△スタジアム、△△百貨店の電気工事はウチが担当したんです。それだけじゃありません。ウチがいなくなれば○○市の電気はすべて止まってしまいます」と、地元の誰もが知る施設の名前を挙げながら話すようにしたのです。すると学生の表情が一変しました。「えっ、あそこを!」「それって市全体のインフラを支えているんですね!」という声が上がり、説明会後のエントリーが増えました。追加費用はゼロです。説明のトークを変えただけです。
企業の歴史や理念を抽象的な言葉ではなく、具体的なストーリーとして伝えることで、社会的意義のある仕事を求めるZ世代の学生にとって、企業の存在意義や社会的価値を実感できる機会になるという事例は、実際に各地で報告されています。「ストーリーで語る」「固有名詞を出す」「数字を添える」、この3点がトークを劇的に変えるのです。
業種を変えてもう1つ見てみましょう。食品製造の会社が採用に苦しんでいたとします。「食品の製造をしております」では誰の心も動きません。しかし「毎朝、○○県内の小学校7,000人の給食に使う野菜を処理・加工しているのがウチです。子どもたちの健康を守る仕事です」と言い換えると、全く違う反応が返ってきます。同じ仕事の説明なのに、受け手の感情が動く度合いが大きく変わります。
廃棄物処理の会社であれば「ゴミを集める仕事」ではなく「○○市の清潔な街並みを毎日維持しているのがウチです。私たちがいなければ、この街は機能しません」という言葉になります。物流会社であれば「○○県内の病院80施設に医薬品を届けているのが弊社です」という表現ができます。どの業種でも、発想の軸は同じです。「この仕事がなければ、誰がどう困るのか」を考え、それを具体的な固有名詞と数字で語ることです。
この切り口は、採用だけでなく定着にも直結します。入社した人が「この仕事の意味」を実感できれば、会社への愛着が生まれます。Z世代の89%は、目的意識が仕事への満足度と幸福感にとって重要であると考えているというデータがあります。逆に言えば、入社後も「自分の仕事が何のためになっているのか」が見えない職場は、離職リスクが高い。「仕事に社会的意義を感じない」という不満が増加しているのは、入社前だけの問題ではなく、入社後もずっとつきまとう問題なのです。
就職後3年以内の離職率が2018年の29.5%から2022年は5.4%へ低下したという実例があります。これは社員に仕事の意義と成長実感を根付かせた結果です。定着率の改善が採用の効率を上げ、さらに業績向上へとつながる好循環が生まれました。「採れても辞める」「また採用にコストをかける」という悪循環を断ち切るには、社会的意義の言語化が最も費用対効果の高い手段です。
採用担当者がよく犯す失敗があります。会社案内や採用ページに「社会貢献に取り組んでいます」「地域に密着した企業です」という言葉を並べることです。しかしこれだけでは届きません。求職者が知りたいのは「どういう形で、どこに、どれほど貢献しているのか」という具体性です。株式会社ディスコの調査によると、2020年から2021年にかけての新卒採用において、就職先企業を選んだ基準として「社会貢献度の高さ」が3年連続で1位でした。この調査が示すのは「社会貢献」が採用の決め手になるほどの力を持つという事実であると同時に、その伝え方が具体的であるほど効果が増すということです。
さて、具体的に何から始めるかです。今日から実行できる最初の一歩があります。社内で5分のミーティングを設けてください。テーマは「うちの仕事がなければ、誰がどう困るのか」です。社員に自由に考えてもらいます。出てきた答えを、地名・施設名・人数・金額などの数字を使って文章にします。「○○市内の▲▲件の工場に設備を納入している」「○○病院の○年分の○を製造している」のように。その言葉を、次回の採用説明会のオープニングトークに入れてみてください。費用はかかりません。スライドを1枚変えるだけでもかまいません。
貴社がどんな業種であっても、この考え方は適用できます。建設、製造、介護、物流、清掃、農業、食品、IT、小売。すべての仕事に、誰かの生活を支えている側面があります。大切なのは「それを言葉にする」という作業を、今まで怠ってきただけという事実に気づくことです。そのことに気づいた企業が、採用と定着の両方で一歩抜け出しています。
貴社の仕事が誰かの暮らしを支えているのは間違いない事実です。それをそのまま言葉にするだけで、今日から採用活動は変わり始めます。
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