費用ゼロでできる就活セクハラ対策、10月施行の法改正を「採用力向上」に変える方法

2026年9月22日、あと9日後の10月1日から、すべての企業に新しい法律上の義務が課されます。改正男女雇用機会均等法に基づく「就活中の学生などに対するセクシュアルハラスメント防止措置」の義務化です。従業員が1人でもいれば、会社の規模を問わず対象になります。中小企業への猶予期間は一切ありません。

「対岸の火事だろう」と思われた方こそ、この記事は精読すべきですよ。

この法律が何を変えるか?「採用の場に来た学生や就活生も、法律で守られる存在になった」ということです。職場で働く社員へのセクシュアルハラスメントを防ぐ措置義務は法律に明記されていました。しかし、採用面接に来た学生やインターンシップの参加者は対象外でした。今回の改正により、その「法的な穴」が埋まります。

対象は採用面接だけではありません。会社説明会、インターンシップ、OB・OG訪問、SNSでのやり取りまで、採用に関わるあらゆる場面が対象になります。さらに、学生との場に立ち会う社員であれば、採用担当者に限りません。若手のリクルーターも、面接に同席する現場の管理職も、その対象に含まれます。

ここで、一つ具体的な場面を想像してみてください。インターンシップの打ち上げで若手社員が女子学生に「彼氏いるの?」「LINE交換しようよ」と話しかけたとします。本人にその気はなく、場を和ませるつもりだったかもしれません。しかし学生は「セクハラを受けた」と学校と厚生労働省に通報します。通報内容は全国に共有され「あの会社を紹介するのは止めよう」と学校とハローワークのブラックリストに貴社も追記されます。こういう会社、結構多いよ。「紹介が来ないなぁ」と言っている会社ほど、かつてやらかしています。

こうした事態が現実離れした話ではないことは、数字が証明しています。厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、就職活動中にセクシュアルハラスメントを経験した学生は31.9%、インターンシップ中に経験した学生は30.1%に達しています。つまり、就活生の約3人に1人がすでに被害を経験しているのです。

3人に1人という数字を企業側の視点で読み直すと、意味が変わります。自社の採用プロセスに接触した学生のうち、3分の1が何らかの不快な体験をしているかもしれないということです。その学生が黙って帰っていったとしても、心の中に「この会社はやめておこう」という印象が残り、友人には「あの会社はないよ」と伝えているかもしれません。採用担当者の目に見えないところで、応募者数を蝕む風評が静かに広がっている可能性があります。

具体的に何が問題行為として挙げられているかを押さえておきましょう。厚生労働省が示している典型例には、性的な冗談やからかい(被害経験のある学生の38.2%が経験)、食事やデートへの執拗な誘い(同35.1%)、不必要な身体への接触(同27.2%)が含まれます。インターンシップ中に「どんな男性が好き?」と聞く、OB訪問の場で「二人きりで話したい」とLINEを送る、採用面接で「彼氏はいますか?」と質問する——こうした行為がすべて対象になり得ます。異性に対するものだけでなく、同性に対するものも含まれる点にも注意が必要です。

では、企業には具体的に何が求められるのでしょうか。今回の法改正で義務付けられた措置は、大きく4つです。1つ目は、就活中の学生等に対してもセクシュアルハラスメントを許さないという方針を明確にし、採用に関わるすべての社員に周知・啓発すること。2つ目は、学生が相談できる窓口を整備すること。3つ目は、万一問題が起きた際に迅速かつ適切に対応できる体制を持つこと。4つ目は、相談した学生のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことです。

「そんな大がかりなことを急に言われても……」と感じる方もいるかもしれませんが、できることは今日からでもあります。費用がかかることはほとんどありません。まず、採用に関わる社員を集め、「就活中の学生への性的な言動は禁止」という方針をひと言伝えることから始められます。その一言が、法律が求める「周知・啓発」の第一歩になります。

そして「ウチはそんな社員いないから大丈夫」と思われた企業ほど、実は盲点があります。問題の多くは悪意からではなく、「これくらい大丈夫だろう」という無意識の判断から起きています。学生との飲み会の席での不用意な発言、OB訪問の場で二人きりになることへの油断、面接で「結婚の予定は?」と聞くことへの鈍感さ。こうした場面に、リスクは潜んでいます。

義務を怠った場合のリスクについても、正確に理解しておく必要があります。違反しただけで即座に罰金が科されるわけではありませんが、厚生労働省による「助言・指導→勧告→企業名公表」という段階的な行政措置の対象になります。なお、報告を行わない、または虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料が科される可能性があります。企業名が公表された場合の影響は深刻で、採用活動だけでなく取引先との信頼関係にも及びます。また、被害を受けた求職者から損害賠償を請求される法的リスクも生じます。

ここで、対策を整えることのポジティブな効果について考えてみましょう。就活ハラスメント対策は、リスクを避けるためだけのものではありません。整えた企業が得られるものが、実はとても大きいのです。

厚生労働省が発行した就活ハラスメント防止対策の企業事例集には、対策に取り組む好事例として複数の企業が掲載されています。先進的な取り組みに共通していたのは、「公正な採用選考を基礎に置いた面接の設計」「リクルーターへの行動指針・マニュアルの策定と周知」「学生が相談できる窓口の設置と周知」の3点でした。

対策を整えた企業の採用活動には、具体的にどんな変化が起きるのか。「ハラスメントのない採用環境」が求職者に伝わると、面接に来た学生の表情が変わります。「ここは安心できる会社だ」という印象が内定承諾の後押しになります。大学のキャリアセンターの担当者が「あの会社は学生を大切にしている」と口コミを持ち、翌年の合同説明会での紹介につながることもあります。一方で対策が不十分なまま問題が表面化した企業では、翌年の応募者数が激減し、内定辞退率が跳ね上がるという現実があります。採用コストを回収する前に学生が去っていくという状況は、バランスシートに直接穴を開けます。

今の採用競争の実態を数字で確認しておきましょう。学情の調査によると、27卒(2027年3月卒)の内々定率は2026年7月末時点で84.8%と5カ月連続で前年を下回り、文系学生の3人に1人(32.6%)がまだ就職先を探し続けています。限られた学生を複数の企業が奪い合う市場で、「安心して就職活動ができる会社」というブランドは明確な差別化になります。

5年後の話をしましょう。対策を整えた企業と整えなかった企業の間には、これから採用ブランドの格差が広がっていきます。SNSの口コミ文化が定着した現代において、就活生の間での評判は「人から人へ」ではなく「画面から画面へ」瞬時に広がります。1件のネガティブな体験談は、数十万人の学生が閲覧する就活サイトのレビュー欄に残り続けます。デジタルタトゥーとも呼ばれるこの記録は、一度刻まれると消えません。5年後に「あの頃ちゃんとやっておけばよかった」と後悔しても、失った信頼を取り戻すのには多大なコストと時間がかかります。

逆に、今すぐ手を打った企業は5年後に何を手にしているか。「安全な採用環境」という評判は口コミで広がり続け、大学のキャリアセンターとの関係が深まり、インターンシップ参加者の質が上がり、内定承諾率が高まります。採用コストは下がり、1人あたりの採用の質は上がります。これは採用投資の利回りが改善されるということです。

繰り返しになりますが、10月1日まであと9日です。まず今からできることをお伝えします。

採用に関わる社員全員に「採用活動の場で、学生に対する性的な冗談、プライベートへの過度な立ち入り、食事・LINE交換への執拗な誘いは禁止です。これは2026年10月1日から法律上の義務になります」を伝えましょう。これだけでも、法律が求める「方針の明確化と周知・啓発」の第一歩になります。

そして来月以降に向けて、1枚の「面接NG質問リスト」を作成することをお勧めします。「彼氏・彼女はいますか?」「結婚の予定は?」「お酒は飲めますか?」「次に二人で話しましょう」——こうした質問や誘いが、なぜ問題になるかを社員全員が理解できるよう、具体例で示した1ページの資料です。A4用紙1枚、箇条書き、費用ゼロ。これを面接前に全員が確認するルールにするだけで、採用現場のリスクは大きく下がります。

就活中の学生を守ることは、採用に来てくれる未来の社員を守ることです。その姿勢を整えた会社は、「ここなら安心して働けそうだ」という信頼を学生から勝ち取ります。法律が後押しするこのタイミングに、採用環境を整え直す一歩を踏み出しましょう。動いた企業と動かなかった企業の差は、5年後に採用力の差として、はっきりと数字に現れます。その差を今、ここで埋めましょう。


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